アンタの事が心配で心配でたまらない自分が嫌になることがある。
俺の知らないアンタなんて一つもなけりゃあいいと思うのに
実際のアンタは俺に知らさない事が多すぎる。


「トシぃ〜このままつきまれとんれいくか〜」
「行けねーよ」

その月もぼんやりとしか出ていない暗い夜道を、俺は近藤さんに肩を貸しながら歩いていた。
飲みに行ったまま、なかなか帰ってこないと思っていたら、迎えに来て欲しいと連絡があり、他の奴には有無を言わせず俺は屯所をでた。

「近藤さん、しっかりしろよ。もう呂律もまわってねーじゃねえか」
「そうかー。すなんなーいつもすなんなー」

道の真中だというのに、俺に向かって急にぺこぺこ頭を下げだした近藤さんは、もう一人では立てないほどに酔っ払っていて
足なんて完全に千鳥足だ。

なんで謝ってんだコノ人。
ていうかなんでこんなに酔っ払ってんだコイツ。

いくら副長と言えど、毎回どこで誰と出かけるか言い残していけなんて言えるわけでもないから、俺は今日この人が誰と飲んでこんなことになったのかを知らない。
指定された場所まで行くと、近藤さんがそりゃまぁ酷い姿勢で立っていて
俺を見て嬉しそうに手を振るから、怒りが目減りしてしまって問いただせないでいる。

こんな風にしてこの人は時々、俺たちの知らない世界で、俺たちを寄せ付けず、お人よしの瞳を輝かせ、大声で笑い、迷惑な恋話をふりまいて、必要以上のスキンシップを受けても何ら気にする事なく、その魅力的で馬鹿げた男臭さの感染者を増やすのだ。


何もかもこの人のせいだ。
こんなにイライラするのも。
うっかり上着を忘れてきたがためにタバコがないのも。


「すなんなー」
まだ謝ってくる真っ赤な上司の醜態に、無性に腹が立ってきた俺は、無言で先に歩き出した。

「うぉぉーいトシーまってくれ〜」
近藤さんが慌てて追いかけてくる気配を背中で感じても振り返ってやらない。
へべれけの千鳥足がもつれてこけても心配なんてしねーぞ俺は。
心の中で虚しい誓いを叫んでみる。

「トシートシぃー」
酔った近藤さんの聞きなれない甘い声で、吹っ飛ぶくらい軽い誓いを。


「はぁ」

なんなんだよアンタ!そんな声で呼ぶんじゃねーよ!
溜息をつき、思わず立ち止まった瞬間に、俺は近藤さんに背中から羽交い絞めにされた。

「つかまえらぞー」
「酒臭ぇよアンタ」

「トシはつれないなー」
「あん?何言ってんだ。こうやって迎えに来てやったんだから、有り難く思えよ」

真っ赤な顔が緩んだのがわかる。見なくてもわかる。アンタの笑顔の気配。
嬉しそうに笑ってんだろ。
誰にだって優しくされた時はそんな風に。

「トシ。いつもありがとな」
そう言ってこの人は恥ずかしげもなく俺をぎゅうと抱きしめる。

何やってんだよアンタ。頼むからそういうのヤメロ。
俺は今タバコが切れてやばいんだ。
だから多分こんなに苦しいんだ。







「トっ・・・・!」
ふさぎこんだ土方の顔をよく見ようとして声をかけた近藤の言葉が途切れる。
ほんの数秒だけ呼吸が止められたと思うと、それはすぐに解放された。
酔った頭では今起きた出来事を理解できず、解放されたあとのやけにクリアな呼吸だけが彼の記憶に残るのだろう。


近藤に肩をかして二人はまた歩きだす。


ちぇっ

記憶が吹っ飛ぶくらい飲んでんだ。こんなことなら舌いれりゃよかった。

土方は思う。

そうすれば、アンタの口に残ったアルコールで俺だって少しは酔えたかもしれない。



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局長の最初のセリフは「トシーこのまま月まで飛んでいくかー」 土方氏が少し女々しい気がしますが気にしナーイ。舌いれりゃよかったんだ。ちっ(なんてことを)。 土方→近藤は基本。土方氏が切なく気持ちを隠してる系も、結構強気でアプローチしてるのに近藤さん鈍すぎてわかってもらえない系もどっちもいいと思います。 近→妙はやっぱ外せない。でも二人にイチャイチャして欲しいなぁなんて思うて悩ましいです。