反転につぐ反転

気が付けば視界が反転していて、トシが狼男に変身していた。とか
「近藤さん」と俺の名を呼ぶ声が切羽詰っているように聞こえたのでうっかり目をつぶってしまった。とか
そういうのは笑えない冗談だ。

コマ送りのようなゆっくりとした動作で唇を奪われたというのに、身じろぎひとつできずに甘んじてそれを受け入れた近藤という男。

なんて馬鹿な男なのだろう。

口内をまさぐるトシの舌が急に奥深くに進入してきて息苦しい。
けれどもこのキスは甘くはなく苦かったので、まるで別人の出来事のように冷静な思考を保つもう一人の俺がいる。

ああ、苦い・・・。トシ、お前のキスは酷く苦いよ・・・

「あっ・・」

上っ面の自分が吐息を漏らした瞬間、自分の上に覆い被さる男がわずかに動揺する。
そして、まるでそれを合図にするかのように、トシは俺の首筋に顔をうずめた。


ああ、ここまでだ。

上っ面の自分と冷静な自分
双方の意見がまとまったところで、まるで夢から覚めたように俺は五体の感覚を取り戻す。

注意深く自分の首筋に噛み付く男の気配をさぐり、そっと重心を据える。

そして

反転。


「近藤さ・・ん」


ひっくり返された土方が唖然として近藤を見つめる。
押し倒すような姿勢のまま近藤はニッと笑い、土方の額に口付けた。

「トシ、続きは甘いキスができるようになったらな」
「甘いキス?」

「ああ、お前の口付けはひどく苦いんだよ」

そういって立ち上がり何事も無かったように衣服の乱れを直す近藤に

土方は

熱い戦慄を覚えた。




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余裕のない土方氏と大人の余裕をかます局長が書きたかったんですが・・・ねぇ


反転の反転は元通り