懐古

「・・・・・・」

月があんまり綺麗だったからたまには二人で酒でも飲もうかと思って部屋を訪れたのに
そんな風に無防備な姿で眠られたのではどうしようもない


 懐古 

「おーい近藤さん」



その姿に魅入られて障子も閉めずにアンタの横に座り込めば
月明かりで照らされた近藤さんの上に俺の黒く長い影がかかる。
何とはなしに、だらしなく腹に置かれた手が気になって、起こさないようにその手をそっと取ると、それはゴツゴツした男くさい手だったので、ふと、刀を失ったときの事を思い出す。


途方にくれた俺たちにアンタは笑顔を見せたんだっけなぁ。
飛び切りのやつ。

このゴツゴツした手を伸ばして一人一人を抱きしめ、両の腕に抱えれるだけのモン全部抱えて、何一つ見捨てずに、今よりもまだ少し若かったアンタは、「なんとかなるさ」と笑い飛ばして、とどまることを知らずに増えつづける俺たちの不安と、負担を一身に受け止めた。
それでいて弱音ひとつはかないこの男に、心底惚れたのはきっとあの頃だ。
あの時俺はなんて強い人なのだろうと思ったけれど、
俺たちみんな少しは年をとったから、今頃になって思うことが沢山ある。

本当に途方にくれていたのはアンタだったんじゃねーか。

誰よりも古臭くて男らしい武士道を貫いて生きてきた漢だから
刀を失ったことで、一番大きな衝撃を受けたのも、最も途方にくれていたのも、心にでっかい穴あけたのも、
アンタだったんじゃねーのか。

なのにアンタは俺たちにその不器用な笑顔を見せて、大丈夫だと言い、お世辞にも綺麗とは言えないこのゴツゴツした手で俺たちを守り、導いた。

「ばかやろう」
だとしたら、この男はなんて馬鹿な男なんだろう。

甘ったれた過去の自分が嫌で嫌で苦しくなる。
涙ではない、涙ではない何かが
近藤さんの手の甲に一滴落ちて
やりきれない俺はもう乾いてしまったその跡に唇を落とした。

月が寂々と近藤さんを照らす。
黒い影は長く長く伸びていった。


 

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近藤さんは男の中の男だと思う。むしろ漢だと思う。 だけど可愛いこちゃんで受けだと思う