SM論



門の方から
「またですか?!」
という隊士の呆れた声と
「すまん。すまん」
と口だけの反省を繰り返すストーカーの声が聞こえる。

もうすっかり日常の1コマになったその光景に、土方と沖田は互いの顔を見合わせると 浅く小さな溜息をついた。

「よっこらしょ」と爺臭い掛け声をつけて沖田が縁側に座り込む。

「お前らちっとは働けよ」と文句を言いたくなる土方だったが、 こんな澄んだ青空の日には無理もないかと思い直して、その隣りに腰を降ろした。

落ち着いたもんだ、自分も隊も。

こんな風に慣れっこになる前、あの人が出て行く度に
「寂しい」とダダをこねたのは山崎だったか・・・。

その正直さを羨ましい。と心の隅で思ったのはけしてそう昔の話ではないのに、もう随分前の事のような気がしてしまうのは、それだけそう思った頻度が多いせいか

だとしたら、なんだかやりきれねーな。


「俺だって尻毛ごと愛せるのによ」


ぼそり と、吐かれたセリフに反応して沖田が土方の方を見る。
無意識に言ったセリフなのだろう

「あっ」

口に出してしまったことに気付いた土方は決まり悪そうに眉間に皺を寄せた。


「諦めて下せぇ」

「?何をだ」

「近藤さんのこと」

「ア?」

「相性で言ったら、俺と近藤さんピッタリだと思うんでさァ」

突然何を言ってるんだコイツは。
何も言わずに叩き切ってやろうかと本気で考えて、
土方の手が刀の柄にのびる。

「物騒なお人だなァ。理由だってちゃんとあるんですぜィ」
「あんだよ」

土方の睨みなどにはまったく物怖じしない沖田は、悠々と土方から視線を門の方に移し

「ホラ、近藤さんって根っからのMでしょ」

「ってお前それは・・・」

皆思ってるけどあえて口にしねーんだよ。

「その点俺なんか、サディスティック星の王子ですからねィ」

聞こえてたのか・・・

「相性抜群でさァ」

どうしてこの憎たらしいガキは、そんな馬鹿げたことを論拠に自身に満ち溢れた顔ができるのか―

土方は呆然と沖田の顔を見詰め、頭を振ってやりたい衝動を覚える。
きっとカラカラと見事に何も入ってない音がするんだろう。と思うのだ。

「土方さん俺の顔になんかついてやすか?」
「いや、ふざけた面だと思ってな」

沈黙

「そりゃあ可愛いお前を抱きたいって意味ですかィ?」
「んなわけねーだろ」

「ああ、残念だなァ。そういう大事なことは早く言ってくれなくっちゃ。ホント残念だけど俺は身も心も近藤さんのもんでさァ」

「勝手に話をすすめてんじゃねーよ。っていうか叩き切るぞお前、近藤さんはお前なんか欲しちゃいねーよ」

「ん?ああ、間違えやした。近藤さんが心身共に俺のもんだった」

あーうっかりうっかりと手を叩く沖田の前髪がハラリと落ちる。

「危ねェなァ土方さん。瞳孔開いてますぜィ」

「これはいつもだよ」

「言っときますけど、近藤さんはS専門ですぜィ」

「勝手に決めてんじゃねー。第一、それが本当の話だとしても、あの人相手なら、俺だってS星の王子にでも王にでもなってやらぁ」

沈黙

「な、なんだよお前、その冷たい目は・・」

沖田がそうかそうか。とメモをとる動作をして、ニタリと笑う。
土方の背に悪寒が走る。

すぅ

「近藤さぁぁーん!土方さんの(ムッツリ)ヤロー近藤さん相手でS星の女王様になりたいらしいですよー!!」

大声
それは屯所中に響く大声

「総悟テメェぇ!!こんのクソガキィっそこに居直れー!!」

ドドドドド



ほんと土方さんで遊ぶのは楽しいや。
この人意外と単純だからなァ。

全速力とは思えない涼しい顔で沖田は逃げる。

本当は独り占めにしてェけど、楽しみが減っちまうから土方さん、もう少し二人仲良く不毛な恋でもしましょうよ。




 

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もう沢山の土方が言っているあの名セリフをついに!