馬鹿
橋のたもとで円陣を組んで地べたに座り込んでいる馬鹿がいたからどこの馬鹿かと思ったら
うちのバカだった。
ギターを抱えたわけのわからない色の髪の兄ちゃんたちと談笑するあのおっさんはバカはバカでも本物のバカなので、あんな風に嬉しそうに笑っているときは見過ごしてやるのも一興だと思う。
けれども、前を歩いていた女が横に曲がった瞬間に、愛すべきバカの隣にそれこそ救いようのない銀髪の馬鹿がいるのが見えて
しかもその男が近藤さんの肩に親しげに手なんて置いちゃったりしていたので
カチンときて
気が付けば馬鹿の仲間入り。
「おい大将。アンタこんなところで何やってんだ」
「お、トシ!いいところに来たなぁ。まぁお前も座れ」
案の状というか、俺を見た近藤さんが嬉しそうに手を伸ばす。
「ばーろー。天下の真選組が二人こんな地べたに座れるかっつーの」
俺は近藤さんの隣を陣取る銀髪の馬鹿をにらみつけながらその手を払う。
すると、銀髪は、しょんぼりする近藤さんの肩をまぁまぁと叩いて
「これが噂のキョウサイ」
と、俺の睨みはスルーして派手な頭の兄ちゃんたちにそう言った。
「はぁ。この人が噂のキョウサイですか」
あんだコイツらは?
やめてくれ。耳障りな馬鹿語を話すのは。
キョウサイってあんだよそれ。
俺は公家の菜っ葉じゃねーんだよ。
ギロリと派手頭を睨みつけると奴らはビビッて動きを固める。
「こらこらトシ。お前はほんとどこでも喧嘩ふっかけるなぁ」
近藤さんは「コイツは重度の人見知りなんだ」と奴らに言う。
俺は普通だ。アンタに警戒心が無さ過ぎるんだ。と俺は思う。
「トシ、“もず”のお二人だ。歌うまいぞ」
近藤さんが気をつかってかその派手な頭の二人組みを俺に紹介する。
ていうか、もずって何だよお前ら。
すでに現実世界でパクリユニットがでてるアーティストをさらにパクってんじゃねーよ。
だいたいお前らの見た目、一体本物とパクリのどっちをパクったんだよコラァ。
そう考えるとさらにさらに不機嫌になった俺は挨拶代わりにもう一度睨みを利かせた。
「こいつはコミュニケーション不全症候群なんだよ。なー多串君」
「あぁ?」
さらにビビッて泣きそうになる奴らをかばうように銀髪が立ち上がり、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべると奴は俺の肩に手を置いた。
「本当は仲間に入れて欲しいんだろ?素直じゃないなー」
「いるか。ていうか触るな。馬鹿が染る」
「何ですとー!俺のバカはバカでも穢れ無きバカだからうつらね−よ」
なんだよ穢れ無きバカって・・・
「じゃあアレだ。髪の毛がねじれるから触れんな馬鹿」
ムキーとなって万屋の野郎近藤さんに抱きつきやがった。
「お前なんか心が三回宙半分ひねりしてるくせに」
「あんだと、だったらお前は心と髪の毛がギンガー宙返りだよ」
「うるせー俺のは伸身のコバチですぅ」
「まぁまぁ、お前ら二人とも体操王国日本のさらなる復活にきっと貢献できるから喧嘩は止めなさい」
近藤さんがオロオロと俺たちを制止する。
「近藤さぁぁん」
オイ万屋。お前わざとやってるだろ。
普段は近藤さんなんて呼ばねーじゃねぇか。
そんでもって抱きつくな。
「は・な・れ・ろー!!」
ハァハァゼィ
俺は慌てて近藤さんから万屋の馬鹿を引き剥がし、俺たちの間には一触即発の雰囲気が漂った。
それを見て、ついに俺とコイツの間で困った顔をしていた近藤さんが立ち上がる。
「もうお前ら困った奴らだな。仕方ない、あれだ、今日はもうお開きだ。お開きお開き、トシ帰るぞ」
ああ、本当に、近藤さん、そうしよう。
俺はアンタをこの変態から一刻も早く離したい。
「また来るな」
楽しかったよ。と笑って近藤さんがもずに手をあげて挨拶する。
「あ、ハイ」
俺たちのやりとりに固まっていたもずは我にかえって会釈した。
帰り道
よほどもずが気に入ったのだろう。
「“ああパッとしない青春の日々”なんてなー、懐かしくなって泣きそうになるんだよ」
近藤さんは嬉しそうにもずの話ばかりする。
「もうそのタイトルだけですでに泣けそうだな」
俺は適当に相槌を打つが心中穏やかでない。
アンタの心に定員はないのか?
大切な奴を増やすたびに一人一人の領土は狭く小さく削られるのか。
それとも、アンタの心は無尽蔵に大きくなるのか。
後者だといい。
そう思いながら、俺は気に食わない銀髪の、近藤さんを見る助平な視線を思い出して一人苦い顔をした。
「なぁ、トシ。俺も歌がうまかったらなぁ。アーチストって素晴らしいなぁ」
「近藤さん。ティ」
「ん?」
「アーティスト」
「ティ?」
「そう」
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銀さんが言ったキョウサイは恐妻:恐い妻土方さんの言ってるキョウサイは京菜:京の野菜
土方さんは近藤さんが好きすぎて近藤さんのことをバカとかおっさんとか呼べばいいと思います。