赤い・・・
ガキの時分に夢にまで見た三段重ねのアイスクリームを連想させる頭の瘤と、
パンダに憧れてるんじゃねィかと疑うような目の回りの痣が、
凶暴の二文字を冠するあの女の手によるものでなくて、
夏服の再興を思わせる破れた方袖と、
チリチリの頭に焦げ焦げの服が、
ドーナツ作りの失敗によるものでなかったとしても、
自分は間違った事をしたとは思わねェし、
後悔なんて微塵もねェ。
この人の今日の出来事の全ては、
不運な星のめぐりによるもので、
俺にできるたった一つの事といえば、
赤いものを用意することだけだった。
反省事項があるのだとすれば、
赤褌と赤マフラーだけでなく、
赤い上着と赤いハンカチ
赤鼻のトナカイと真っ赤なポルシェ
赤い花束と赤い痕
ありとあらゆる赤を、この人に提供すべきだった点だけだ。
けれど、
全てを赤く染める夕焼けの光に、染まった男が、
「次はうまくやれよ」と笑ったので、
やはり、
その必要もなかったと
俺は安堵する。