土方さんが柄にもなく“立ち入り禁止”なんて紙貼って部屋に閉じこもるもんだから
屯所中がびびっちゃってしかたねぇや。

山崎なんかそりゃもう酷いもんで、さっき道場で自分の防具だしてやしたぜ。

鬼の副長だってやりきれなくなることぐらいあるんでしょう。
しかたありやせんよ
アンタむっつりだから

黒い妄想


いつだって恋しちゃってる近藤さんは時々不気味なくらいセクシーなことがある。

と、沖田は常々思っていた。
昨日の晩だって
なにがどうなってそんなオーラを放っているのか見当もつかないのだが、かの男はゾッとするほど色めき立っていた。
もちろんあのガタイで行動で人と柄だ。
一般に使われるセクシーさとその艶は大きく違う。

それでも、沖田の目には、ゾッとするほど、
そうゾッとするほど色っぽく映るのだ。
それはあの人がもつ一種独特な漢っぽさというかお人よし具合というか、そういう人を惹きつけてやまないなにかと紙一重なのだろうと沖田は結論つけるのだが、そんな日はやけに隊士に人気があるので、あながち自分の感覚がずれている訳ではないのかもしれない。
現に山崎などは昨日近藤に接触しすぎて土方にしこたま殴られている。(それ故に今日は先手を打っての防具だろう)
そしてまた、皆を震え上がらす不吉な張り紙をはって閉じこもっている土方だって、昨日彼がしこたま殴った山崎や他の隊士と大差ないのだ。

だとすると天下の真選組も大したことねぇな。
なんて自分を棚に上げてニヤリとしながら、沖田は廊下の角をまがった。


ようはするに土方は近藤の色気に歯止めが利かなくなっている。というわけだ。

「土方さんムッツリだからなぁ」

沖田はすれ違った隊士が驚いて振り向く程度の音量で独り言を言うと平然と副長室に向かって歩を進めた。





「ひっじかったさ〜ん」
沖田はわざと楽しげにその名を呼んで、返事も聞かずに障子をあける。
部屋の主のイライラが最高潮に達しているだろうことは百も承知の上でこの所作だ。

勢いの割には大人しく、半分だけ障子を開けると、
その開いた隙間から

溜まりに溜まった煙と

なにかこう形容し難いものが

どっと流れ出してきて

ひょい
と沖田はそれをかわして、誰かさんに聞こえるわけでもないのに大袈裟な溜息をついた。

一通りその不気味で嫌な臭いが付きそうな煙が出て行くのを待って、沖田が部屋の中をのぞくと、獰猛な獣のような目をした男が一人部屋の隅で煙を吐いていた。

あーあ。声にならない嘆きを心の中で盛大に発して
沖田は猛獣の住む部屋に押し入る。
「ありゃあ一体、何工場を開いたんですかィ?」
できるだけコミカルな表情を作ってそう問うと
沖田の問いには答えずに土方はぎょろりと視線だけをこちらにむけた。
返事がないのはわかりきったことで沖田は気にする様子もない。
「根暗で性悪の土方さんがこんな暗いところでうずくまってちゃあ洒落にもなりやせんね」

「灯りもつけずに」とつけたして沖田はキョロキョロと辺りを見回し、電源を見つけるとそれをつけた。

急に明るくなった所作で普段から悪い目つきをさらに悪くして
「眩しぃだろ。テメェ勝手な事するんじゃねーよ」
と、壁にもたれかかる姿勢を崩さぬまま土方が煙と共に悪態を吐く。

「根暗で性悪の土方さんがおまけに引きこもりになったんじゃぁさすがにヤバイでしょうから。親切心ですぜ」
土方は、沖田には親切の押し売りという言葉がよく似合う。と思ったがそれは口にせず
「根暗で性悪でおまけに無表情のテメェにだけは言われたくネーよ」
と、睨みつけて「大きなお世話だ」と言わんばかりにもう一度煙を吐いた。


沖田はそれには取り合わずに
どこか余裕のない土方とは対照的で不適な笑みをかの男にむける。

そして唐突に

「欲情してるのは皆同じでさぁ」

と一言言い捨てた。

その度に禁欲になろうとするのはアンタだけですが。

「あ?」
「聞こえやせんでしたか?欲情してるのは皆同じでさぁ。って言ったんです」

そんな発情した獣みたいな目をしておきながら

「皆、健全に欲情してるのに、根暗で性悪で引きこもり気味の土方さんはムッツリだからこんなとこでうずくまんなきゃなんねぇんでさぁ」
「アんだとォ」

刀に手をかけた土方を軽く制しながら、沖田は彼の直ぐ目の前にしゃがみ込む。

「喧嘩腰になったってだめですぜぃ土方さん。それよりイイ事しやしょうよ」
「は?」
(土方さんたらさっきから片言だなぁ)とどこか遠くの自分が思い、クスリと笑みを漏らすと沖田は言葉を続けた。
「イイ事って言ったらイイ事でさぁ。土方さんにも解るように言うとニャンニャンです」

土方の目が少し見開かれて
間を置いて煙を顔に吹きかけられる。

ごほごほ

と、芝居地味た咳をして
「酷いや」と沖田は笑った。

「いい案だと思うんですがねぇ」
「何がだ」

「土方さんは俺を近藤さんだと思って抱いて―」

土方が咽て幾度か咳をする。(これは本当の咳で生々しく)

「―俺は近藤さんに抱かれているつもりで足を開く」

ニヤリと美しい顔立ちをした少年が笑う。

「絶頂に達した時は二人で近藤さんの名を呼びやしょう」

沖田の顔がゆっくりと土方に近づき
通り過ぎて
耳元で囁き声

「そうすれば最高に気持ちいいかもしれやせんぜ」

無言

土方が信じられないというように目を見開いて、長く吸わずにいたタバコの灰が彼の指を焦がし、慌ててそれをもみ消して
沖田の方をいぶかしげに見るだけの間

無言

そして
くつくつと笑い声

「バーカ。気持ちいいわけねーだろ。お前とやるくらいならココに近藤さん呼んできてやるよ」

「いいですねぇ。3P」

「ばっ、ぶぅわっ、馬鹿かお前」

「そん時は上から俺、近藤さん、土方さんで」

「馬鹿野郎。上から俺、近藤さん、お前だよ」

「そいつは随分横暴でさぁ。上から俺、近藤さん、土方さん、山崎。ってハムラビ法典も言ってやすぜ」
「だ?!増えてるし!!ていうかハムラビ法典てなんだよお前!!」
「ハムラビ法典も知らないんですかィ?」
「話をすりかえんなっ!!」


ふざけた妄想だ。どうしようもないと思いながら
交わす二人の喧嘩腰のコミュニケーションを止めたのは
双方の名を呼ぶ声と大きな足音だった。



 

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なんかほんともうごめんなさい。
近藤さんはセクシーだといい。
ちなみに最後があんなんなのはどうしようもないおまけのふりです。