ちゃんと飯食って、トシと喧嘩して、よく寝て、後は多少色々あって、そして、その積み重ねの果てに、大きくなっていく



いい、天気だなぁ。

見上げた空は青く、白い雲がたなびいている。
春の陽気が、自分たちの心まであったかくしてくれるようで、理由も無く楽しい気分だ。
時折、強い風が吹いては、木々の緑が、生まれたての溌剌とした色が、ザワザワとさざめいて、俺の心を揺さぶった。
歩いていく先に総悟の背が見えた。その少し先に一塊になっている万事屋が見える。
俺達は今日は偉いさん方の警護で、やっこさん達は何の用事か知らないが、珍しく仕事のようだった。
ここんとこ奴らと顔を会わす時は、何かしら起こった時だったから、こんなにも平和な春の日差しの中で、彼らの顔を見るのは、不思議な気分だ。

それにしても、いい天気だ。

チャイナ娘と新八君の笑い声が聞こえてきて、俺は思わず微笑んだ。
物騒な環境でも、よく育っている。
銀時の影響かな。
若い力はいい。この新緑のように。なんだか心にグッとくるものがある。

本当は、まだ、もう少し、甘やかされていたいだろうに。

そして、俺は、うちの新緑に目を向けた。
総悟の奴も、こんな殺伐とした中で、本当によく育ってるなぁ。
ちゃんと飯食って、トシと喧嘩して、クソして剣ふるって時々働いて、よく寝て。
そうして、その積み重ねの果てに、大きくなっていく。
最近は、驚かされてばかりの、随分頼りになる背中を見て、俺は少し、ほんの少しだけ切ないような気になった。
ちょっとだけ感傷的な気持ちになって、総悟の面を見れば、総悟のやつ珍しく、ぼーっとしている。
総悟の奴って、意外と、目を開けてるときに、ぼんやりしていることが無いんだ。
大概は、ちょっとハスに構えて、物事の状況や、人の動きなんかを観察している。
人に興味が無さそうな、あの態度に騙されて、油断していると、こちら側が意識してないような些細なことまでチェックされてるし、そしてまたよく覚えている。山崎なんてそれで時々痛い目をみてる。

そんな総悟が、珍しく、ぼーっと何かを見ている様子だったので、興味が湧いて、そっと視線を追うと、その先、には銀時の頭部があった。

ふわふわの銀髪(白髪というと怒られる)が、風に吹かれてそよいでいる。
どうやら総悟はそのふわふわを見ているようだった。
そういえば、総悟の奴、髪の色が元々黒くない奴に結構肩入れしてんだよな。
銀時に一目置いてるのもそのせいだったりして。なんて考えて、総悟の視線を追ったまま、銀時を見れば、さらに面白いことに、銀時の視線は、ちょうど通りがかった女性の美しい黒髪へと注がれていた。
銀時の髪の毛をふわふわさせた風が、同じようにその女性の髪を撫でて、肩下まであるロングヘアーがサラサラと揺れる。それを、物欲しそうな目で見ている―もしくは睨みつけている、銀時の脇を新八君がつついた。

「銀さんいい加減諦めたらいいのに」

心底呆れたような声が、風に乗って届いて、思わず噴出した瞬間、総悟が俺に気づいて、そして二人目が合って、今度は、あははと声に出して笑った。
近づいて、隣に並ぶと、

「人間ってのは無いものねだりの欲ブッカですからねィ」

と、総悟が言う。

「だな」

まったくその通りだと、俺も笑う。
けれど、本音を言えば、さっき、昔の事を思い出してしまったので、気になった。
総悟は可笑しそうにそう言ったけれど、本当のところどうなんだろうって。
人間って確かにそういう生き物だから、涼しい顔してる総悟だって、時々銀時みたいに無いものねだりになったりしねーのかな。
こいつあんまりそういうの表に出さないから。

なんて、いらない心配をして、俺は総悟の頭部を見た。

こいつまだ小せぇ時に、よく髪の毛の色からかわれて怒ってたからな。
天人の子って言われては、そいつボコボコにしてよ、保護者って言われたら絶対俺の名前言うから。
よく迎えに言っては怒られたっけ。相手の親に。
「どんな教育してるんですか」って言われてもなー。うちの道場に通いだす前からこんなんだったつーの。

今は笑い話になった一連の出来事。
記憶って思わぬところでつながってるもんだ。

「何ニヤついてんですかィ?」

つい思い出に浸っていると、総悟が不審な顔でこっちを見つめてくる。

「お前一回髪真っ黒に染めたよな?」

「あ゛ー・・・・・・もゥ、こんないい天気だってのに、アンタって人は余計な事を思い出しなさる」

「なさるなさる。もうやらないのか?」


心配がバレると後が怖いし、日頃からかわれてばかりなので、ここぞとばかりにニヤついてやると、総悟は、あーあと両手を上に上げて、溜息をつき、そして不意に、真剣な目で俺を見た。


「あん時、「ありのままのお前が好い」って、近藤さん、アンタが言ったんでさァ」

風が、さっき、ふわふわとサラサラをおこしたよりも強い風が、吹いて、総悟の亜麻色の髪が、舞い上がりキラキラ光る。

そんなこと言ったっけとか言ったら、怒るだろうな。

もういつもの涼しい顔に戻って、心なしニヤついてる総悟の横顔を眺めながら、俺は心底安心して、そしてちょっと本気で困った。







 

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本当は嬉しい。
近藤さんはきっと多分「ありのままのお前の方が良い」って言ったんだと思うけどそれは言わない約束