ありったけの



目をあけるとそこに、愛しい人のトレードマークがあった。
俺を心配してその人が、俺のそばに居てくれてることがわかって、まずはホッとする。
なんとなく、もったいなくて、薄目をあけて、近藤さんの顔を見る。

近藤さんは知らない表情をしていた。

近藤さんに気づかれないように、寝てるふりして、近藤さんの方を見つめた。「知らない」というのは語弊があるなァ。と思う。本当は、知っている。滅多に見ないだけで。

誰の事を思ってるんだろォ。
俺の側で。

中空を見つめている近藤さんが、悲しんでいることだけは、ここからでも良くわかった。
あの眼鏡の事だろうか。あの眼鏡。
近藤さんの手に縋り付けば、もっと早く、この人のあったかさに降伏してしまえば、もっと、きっと、違う未来を選択できたはずのあの眼鏡。
頭でっかちな奴はこの人の凄さには鈍感だから。わかる奴だけわかりゃいいんだケド。だけど、あんな風にしか気づけなかったのは哀れだと俺も思う。

あの男の最期は、幸せだったんだろうか。
だとしたらはたして俺は、今、幸せなんだろうか。

近藤さんの悲しい目。
きっと、今、この人は、沢山の事を考えている。沢山のこと。悲しいだけでは、ない、目。

この人が、思ってる以上に、ずっと色んな事見ていて、思ってる以上に、ずっと繊細な人だって気づいたのは、もうどれぐらい前のことだったか。でも、その癖、嫌ンなる程タフだったりもして。
だから、あの男も、もっと我慢強ければ、あるいはもっと幸せになれたんじゃねーだろうか。
御し易い。だなんて、先生が聞いて呆れる。最も御し難いお人だぜィ、こん人は。
お前、馬鹿だったんだよ。って今なら言ってやれる気がした。

不意に、胸の辺りに近藤さんの手を感じて、狸寝入りがバレたのかと思う。
でも、やっぱり、寝たふりを続けたまま、様子を伺った。

バレたわけじゃなさそうだ。

近藤さんの掌が、俺に触れている。近藤さんの視線が俺に向けられている。
そっとそっと注意深く、再び薄目をあけて、近藤さんの表情を盗み見る。

寂しい顔、優しい顔、厳しい顔。

この人は昨日、沢山傷ついて、今日、沢山傷ついている。
狐を懐にいれてやった時、この人のことだ。きっと人知れず覚悟をしたんだろう。本人だって無自覚かも知れないんだケド。きっとみんなが上手くやれるまで時間がかかる事知っていて、それでそうなるまで、懐を重たくしたままじっと耐える気だったんだろォ。今までみたいに。
だけど狐は、愚かなくせに賢すぎて、そして、どっぷりと孤独だった。
運の悪い事に、土方さんはヘタレMAXだったし(彼がヘタレなのは元からだが)、俺は俺の好きなように動いた。
近藤さんのいつも。と、違う感覚で事が次々と動いて。
終わってみてわかった。結局、近藤さんの懐の中で、俺たちは、狐ちゃんの捕り物をしたようなもんだったって。

それで、この人の心は、酷く傷ついている。
この人がどんなにお人好しだって、運命に対して100%強運では居られない。
だから、誰かが死ぬ事もあって。
そんな事、とっくに知っている近藤さんは、それでも、尚悲しいに違いない。

だから俺は、この人が好きなんだけど。

狐が、もう少し愚かだったらなァ、なんて思ってももう遅い。
こうなる事を予感していて、奴を利用した俺をこの人は責めないだろう。
だけど、やっぱり悲しんでいる。

俺の事も







 

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