過去捏造SSS 「こんな寒い日には」

しんと冷えた空気を、体いっぱいに感じながら、
縁側に腰掛け、
吐いた息が、白くなって、天に上っていく様を眺めていた。

感覚が無くなるほど冷えた指先の、
チリリという痛みに呼応して、
忘れてしまいたいはずなのに、心のどこか奥深くで、大切に思っている、幼い頃の記憶が蘇る。

こんなことを言うと笑われるかもしれネェが、
俺は母親が好きだった。

まだ健在の頃の母の
手の温もり
笑顔
今でも感じることのできるその優しさ。

母は体は弱いが、強く、芯の通った江戸の女で、
俺はそんな母親が、本当に好きだった。

けれど、
物心ついた時には、すでに亡くなっていた父の分まで愛してくれたその母も、俺がまだホンのガキンチョの内に、病気を患い、本当にすまない。と寂しく笑ってこの世を去った。

それはとても寒い冬の日だった。

すでに嫁いでいた姉の、厄介になる気になれなかった俺は、父の形見の刀一本抱きしめて、近藤さんの芋道場に転がり込んだ。



そうして数日がたったある日

ちょうどこんな風に、縁側でぼんやりと宙を眺めていた近藤さんが、

不意に、

「総悟。寂しく思うという事は、良い事だ。泣いてしまいなさい」

と、本当に不意に、

そしてあまりにも当たり前のことのように、

言ったので、

母を看取った日にも流さなかった涙を、俺は、流すはめになった。


ああ、あの涙の酷く冷たい温もりが、
今も胸を締め付ける。

こんな寒い日には





 

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寂しい子供だったらという過去捏造。