Thanks2万打アンケートsss 土←近 「ヨイ」
設定は道場時代でいきたいと思います―
「悪ィな近藤さん、留守、頼むわ」
「ん?トシどこか行くのか?」
「・・・ちょっとな」
近藤の隣に腰掛けていた土方は、近藤の肩に手を添えて立ち上がると、乱れた着物の裾を直した。
(温もりが、消えてゆく)
「そうか。行ってらっしゃい」
近藤も野暮ではないから、この情事を人に見せるのが極端に嫌いな男の「ちょっと」に、口を挟むような真似はしない。
ひらひらと手を振って、振り返ることもせずに去っていく土方の黒く長い髪がさらりとゆれて、それが、まるで、手の中から逃げていく小動物の尻尾のように感じた近藤は、思わず、手を伸ばした・・・
土方に気づかれることはもちろん無く、所在無さそうに宙に向かって伸ばされる虚しき左手。
(トシ)
近藤は、何をやってるんだと言わんばかりに首を軽く横にふると苦笑を浮かべて、掌を結ぶ。
(トシ)
それから、背伸びをして、重い腰を挙げると、空を見上げ、稽古場へ足をむけた。
夕焼けの太陽はすでに沈み、空はほの赤く、宵がすぐそばまで迫っていた。
ぎゅっと竹刀をキツク握って、上下に振る。
その一振りごとに、ブンと風を切る音がして竹刀は振動する。
(トシ)
額から汗が滲み、室温があがるほど、空を切っているというのに、胸の痛みを伴う雑念を近藤は拭えないでいた。
(トシ)
(トシ・・・俺は・・・)
汗が玉になってぽとりと落ち、畳に染みをつくる。
(俺は)
不意に竹刀がピタリと止まり、意義を正した近藤が今度はより高くそれを振り上げる。
(お前が・・・)
ビュゥゥ
一際鋭い空を切る音がして
(好きなのだ)
振り下ろされた竹刀がわぁぁんと震えた。
(どうしようもなく、好きなのだ)
あたりは既に暗くなっている。
今夜は月が出ていない。
月も無い宵に近藤は一人飲み込まれる。