Thanks2万打SSS 3 :
長谷川さんと近藤つんもしくは
マダオと酔っ払い





「あー居た居た」

公園のベンチで煙草をふかしている長谷川の耳に「長谷川さ〜ん」という自分らしき人間の呼び名が聞こえてきて、半ば無意識のうちに振り返ると、いい年をした帯刀の男が手を振りながらこちらにむかって駆けてくる。

(恥ずかしい奴)

そのあまりにも無邪気すぎる姿に戸惑いすら覚えて、ズレたサングラスを押しあげながら長谷川は、ふぅーと煙を吐いた。
呆れるほど少年染みた様子の男の頭には、おあつらえ向きにタンコブまであって、長谷川は、繰り返し繰り返し聞かされている恋の話とやらを今日もまた聞かされそうだ。とまだ話も始まっていないのにゲンナリした気分になった。


「チーっス長谷川さん。何してんの?」

「見りゃわかるだろ。暇だ暇。持て余してんだよ」

咥えていたタバコを地面に捨ててぐりぐりと足でもみ消し、そのまま腿に肘をのせる姿勢をとった長谷川の横に近藤が座る。

「そいつは羨ましい事山の如しだなー」

「馬鹿言ってんじゃねーよ。お前こそ相変わらず暇そうだな」

「失礼な!こう見えても日夜江戸の市民のためにだなー」

「あーハイハイ」

会話のテンポは穏やかで馬鹿馬鹿しく、喋りだせば違和感なく、若造とはまた違う自分たちの世界があることを認識させてくれるのだけど

(銀時とコイツが年近いってのはどーも納得いかねーな)

いつだって長谷川はそう思う。

(ホラ例えばこの笑顔とか)

二カッと目の前で近藤が歯を見せて笑い、懐から缶コーヒーを2本とりだした。

「缶コーヒーかよ」

「長谷川さん贅沢言うなよなー。仕方ねーな、じゃ、コレ」

缶コーヒーのブルトップを空けながら文句を言った長谷川の目の前に、予想道りと言わんばかりの勢いでコーヒー缶サイズのビンが差し出される。

「ワンカップ大関・・・」

「好きだろ?」

「人を飲んだくれ扱いするんじゃありません」

そう言いつつも長谷川は缶コーヒーを飲み干すと、近藤の手からワンカップを受け取った。

「で?相談ってなんだよ」

「それが聞いてよ長谷川さん!!お妙さんがさー」

(ああ、やっぱり)と長谷川はくるくるとよく動く瞳を横目にワンカップの蓋をあけた。

「その話こないだも聞いたけど」

「まだ3回目じゃないかっ」

「テメーんトコなら喜んで相談ぐらい乗ってくれる奴いっぱい居るだろ」

「それが最近皆冷たくてさー」

(だろうな)

有り余るほどの愛は持っていても、余計な親切心は微塵も持ち合わせていなさそうな近藤の部下を思い出し、アイツらもわりかし大変なのかもしれない。と同情しながら長谷川は飲んだくれの酒に口をつける。

そして、季節がまもなく春だとしてもまだ冷たい風の吹く公園で、大の男が二人ならんで喋るのはどうかと気づいた長谷川は、始まりだした近藤のお妙さん賛美を遮った。

「近藤。その相談は公園じゃ聞けねーな」

「マジ?」

「あー寿司が食いてぇ」

「寿司屋じゃ落ち着いて話せねーよ長谷川さん」

「じゃ、鰻」

「却下」

「却下ってお前、仕方ねーな。いつもの居酒屋でどーだ」

「よし!乗った」


ワンカップをぐいと飲み干しながら、長谷川は近藤に目をむけた。なぜだか近藤はとても嬉しそうに見える。

(恋は盲目ってやつかね)

昔の自分にもこんな時期があったのだろうかと考えて、これ以上は泣いてしまうかもしれないと思い、長谷川は最後の一滴を飲み干した。
今から行く居酒屋で出てくるであろう酒も、本質的にはこの安いワンカップと変わらないはずなのに、それでも一人飲む酒に比べれば格段美味いのは、隣人の話は不味くても隣人の笑顔は飛び切り美味いからだろうとなど考えて、柄でもないと長谷川は自嘲する。




酒は安くても高くても、酔いはまわるもので、話しては途切れ、途切れてはまた繰り返し話されるお妙さん話にいい加減飽き飽きしていた長谷川は大きな欠伸を一つした。

近藤のこれは、もはや自己暗示の域に達しているのではないか。と思い、美しいけれど酷く暴力的で我侭な志村家のお妙お嬢さんの姿を頭に浮かべたりしつつ、それでいてなぜか、ビール瓶を運んできた若い店員の足ばかりに長谷川は注意をむける。

元より酒に弱い近藤はもちろんのこと、ちゃんぽんされた多量のアルコールのせいで長谷川だって十二分に酔っているのだ。

「近藤よーあのお姉ちゃんの脚綺麗だよなー」

ぐらいの台詞は健全な親父として当然もしくは当然のはずなのに、身を乗り出して先ほどの店員を見た近藤の顔が、頷きながらもニヤリとしたのはどういう了見だろうか。

「長谷川さん足好きだよなー」
「それは違うぞ近藤」
「どういうこと?足フェチじゃねーの?」
「尻から足全体にかけての脚線美が好きなんだ俺は。彼女は特に脚がいい」

元来男はそういうもんだと長谷川は常々思っているし、もちろん軽いジョークを含んだつもりだったのだが、酔った近藤はコテンとカウンターに頭をのせてまたニヤニヤと笑う。

「ス・ケ・ベ」

それは、酔っ払いの戯言だから、軽く聞き流せばいいのに、サングラスがずり落ちるほど長谷川は動揺し、あげくに

「うるせぇ」

なんて、肯定の台詞を吐いてしまった。

「お、なんだよ長谷川さん。ムキになっちゃって。欲求不満?」

ブフォッ

心を落ち着けようと飲んだビールを噴き出して長谷川は恨めしげな目を近藤に向けた。
とたん酔っ払いがカラカラと笑い、なんだか悔しさばかりが腹から沸き起こる。それと同時に、下半身に軽い疼きを感じて・・・

(マジで洒落になんねーよ)

長谷川はタバコに火をつけぞんざいな態度でそれを吸った。


「お前ホントそんなことばっかり言ってたら犯すぞ」


ここは年上としての威厳をだな。なんていうのは言葉選びの時点で既に失敗していて、
相変わらずカウンターに頭を乗せた近藤が

「いいよ」

と、笑ったので威厳も酔いも何もかも吹っ飛んで長谷川はため息をつく。



「おやっさん、熱い茶二つ。あと、お勘定」





 

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コンプリート!!以上を持ちまして企画終了。ご協力ありがとうございました。


ああ、長谷川さんはやっぱどこまでもマダオなのが愛しいです。近藤つんは長谷川さんと一緒だと悪ガキだといい。
ヘベレケになって迷惑かけたり、我侭だったり、理不尽だったりするといい。
あの子可愛いとか言っちゃってる親父たちが可愛いとか常々思ってます。うん。ナイス、ナイス酔っ払い!!