近藤さん

アンタの心がいつだって開放的でかつ温けぇから、だから、俺たちは皆、もっともっとと欲張りになるんです。

ねぇ近藤さん

感じているカラ




「こーんどーうさーん」


気だるい呼び声とは裏腹に、スパンと勢い良く障子を開いた沖田は、目の前にある予想外の光景に軽く首をひねった。
いつもなら迷うことなく部屋に入り、近藤の横やら、前やら、後ろやら、上やらに、腰を下ろす沖田だが、障子を開いたっきりその場で立ち止まって、何をどこから突っ込めばいいものかとしばし考える。
しかし、どこをどう考えても、目の前の光景は突っ込むところだらけだったので、頭使うだけもったいねぇや。と、考える事を放棄して、沖田は、思うままを口にした。


「旦那ァ。そこは俺の席なんでさァ。邪魔だからどいてくだせェ」


邪魔だと言われた先客坂田銀時が、いつの間に屯所に遊びに来たのか、沖田は知らない。沖田どころか誰も何も言ってなかった所を見ると、皆気付いてないのかもしれない。

(たるんでんナァ)

自分のことは棚に上げて、自分の特等席である近藤の背中に覆いかぶさっている銀時の、すっかりリラックスした態度に、見事なまでのくつろぎ具合に、やっぱりどいつもこいつも皆たるんじゃって。と感心して沖田は再び銀時に声をかけた。

「ねェ聞いてます?邪魔なんですってば旦那。そこは俺の席」

すると銀時は、沖田の方に顔を向けただけで別段動く気配もなく、

「そりゃお前、誰が決めたんだ?名前書いてなかったぞ」

と、いけしゃあしゃとのたまい、近藤の背に顔を寄せた。

これが土方なら青筋を浮かべて「叩き切る」と息巻くところだが、沖田はそれを一瞥すると、めんどくさそうに欠伸をしながら彼らの側まで歩み寄り、ひょいと近藤の着物の襟をめくった。

「オカシイなァ。ここに書いてた筈なんだけど」

露わになったうなじの辺りに頭を寄せて沖田は、近藤が背を丸めている為に浮かび上がっている頸骨の辺りをペロリと舐める。

「ぎゃ」

「唾つけた」

ニヤリと笑うと沖田は銀時に向かってどいてくれというジェスチャーをする。

「あっ!!お前、ズルッ!」

虚をつかれた銀時は、少し意固地になってもう絶対に放すまいとますます力強く近藤に張り付き、それを見た沖田も負けるまいと胡座の近藤の上に乗っかった。

「あのー暑いんですけど・・・」

前からも後ろからも抱きつかれてぎゅうぎゅうと挟まれている近藤が弱々しく抗議の声を上げるが、端から人の話を聞かない二人だ、近藤の声なんて全く耳に入らない様子で、近藤越しに近藤がどちらのものかと言い合っている。

(オイオイオイ)

まったく困った奴らだ。と、がっくり肩を落として近藤は苦笑した。
けれども、こんな風にされるのは、暑い。が、悪い気はしない。
総悟と銀時のやり取りはどうも子供染みていて、とくに坂田銀時の方は、もうとっくに成人した大人なわけなのだが、不思議と可愛いもんだと感じてしまう。
これが総悟とトシならこうはならないし、銀時とトシでもこういう風にはいかないだろう(彼らのやり取りも十二分に大人気ないが)。
総悟と銀時だからこうもまぁ微笑ましいというか、しかしまぁ暑い、暑いなぁ。
などと考えて、可笑しくなった近藤は、このまま好きにさせてやろう。と、為すがままになっていた。


「ひゃっ」

ところが、すぐに、そうも言ってられなくなる。

「右耳もーらい」
「じゃァ左耳は俺のもんでサァ」

「ちょちょちょちょ・・・あっ・・ワッ・・・おまぇ・・らッ」

銀時が近藤の右の耳たぶを食み、沖田が近藤の左の耳を舐める。
骨髄がざわつくような感覚が背骨を駆け上がって、近藤はブルリと身震いした。

「お、近藤、感じちゃった?」
「旦那ァ。言っときますけど近藤さんは、俺の舌に感じたんですゼィ。ね、近藤さん?」
「チゲぇーよ!!俺のテクニックに感じたんだよ近藤は!な、近藤?」

「どっちでもいいから・・早く退いて・・」

「ほらよー聞いたか沖田君、俺だって言ってただろ?」
「ハン。旦那の耳どうかしてんじゃねーですか?近藤さんは絶対俺に感じたんでサァ」

「あ、いや、あの」

「あんだとオマエ!俺のスーパーテクニックを舐めんなよ」
「テクニック?あんなの耳たぶ噛んでただけじゃねェーですか。テクニックっつーのはねェ・・・」

「あーあーもう、コラコラお前ら喧嘩しないの」

「よしっ、じゃぁ、どっちがスゲェーか勝負しようじゃねーか」
「望むトコでサァ」

「えっ、ええっ?!」

二人は相変わらず近藤の声を無視して、ついには勝手に妙な勝負をしだす。
さすがの近藤もこのままではと思い制止しようとするが、二人に両の手を取られてハッと息を止めた。

「ぎゃっ」

同時に指を舐られて、近藤が悲鳴をあげる。
生暖かい唇の感触が、濡れた舌が、いかがわしくてドキドキする。

「お、お、お、お、お前らねぇ・・・」

上目遣いで見つめられて眩暈がする。
赤い舌があっちでもこっちでもチロチロとのぞいて気がオカシクナル。

「なぁ近藤」
銀時が何に見立ててかツツツと舌を指に這わせてニヤリと笑んだ。
言葉を失った近藤が、口をパクパクさせながら、銀時のやけに淫らな唇と舌に目を奪われていると、

「イテッ」

沖田に指を噛まれる。

「余所見は厳禁ですゼ近藤さん」

「総悟く・・ん・・・」

沖田の口が近藤の指から離れ、軽く唇を押し当てながら腕を伝い、首筋を甘く噛まれた。

「あ、お前!それは反則だろ、チキショウ、なら俺も」

もう事の展開についていけなくて目を瞬かせている近藤のもう片方の首筋に、銀時が唇を寄せる。

「ヒィっ」

次いで、銀時の舌がツツツと首筋を上がってきて耳に噛みつかれたところで、はたと銀時は口を放して、気だるい顔つきに戻ると近藤の肩に顎をのせた。



「どうしやしたか旦那?リタイアですか?」
「違う、違うぞ沖田君。不毛だ」

「不毛?」

(そんなのは端から解りきったァ事じゃねェですか)

「ああ、不毛だ。とにもかくにも馬鹿げてる」

「何を今更」

沖田も近藤の上に座りなおすと、銀時にならって顎を近藤の肩に乗せた。


「せめてよォ、テメェの心の臓を取り出して食えたらなぁ」


銀時が腕をまわして近藤の左胸に手を当てる。

「それができたら苦労はしませんよ、旦那」

悟ったように呟いた沖田は体中の力を抜いて体重を近藤に預けた。


「はぁ〜」


しばしの沈黙の後溜息を吐いたのは近藤だった。
脱力して近藤にべったりとくっついている銀時と沖田の頭をぽんぽんと叩き、近藤は、あやすような諦めたような声音で言う。



「なんだお前たちはそんなものを探していたのか」




左胸に当てられた銀時の手に、手を重ねて、

「ここはいつでも開いているつもりなんだが・・」

小さな微笑。

「感じちゃあくれねェのか?」

僅かに寂しそうな。




銀時と沖田の目が軽く見開かれて、二人は大きく息を吸い込んだ。


「あーホントお前馬鹿?」


そして、一拍間を置いて、銀時は上を向いて、沖田は下を向いて、勢い良く息を吐き出した。

(それこそ今更解りきったことだァ)


「エェェェェ!!何?なんで馬鹿呼ばわり??」


「それも解らないなんてよっぽどバカだな近藤は。な?」

「ええ、まったくでサァ」

「ウソー。まぢで、ウソー」

「ったくよー」

銀時は頭を掻いてはにかむ様に微笑んだ。
これでは真選組が懐くのも無理はない。と思ったからだ。


「ってお前何してんのォォォ!!」


しかしその温かい間を他所に沖田が、近藤の襟に手をかけて、近藤の胸板を露わにしているのを見つけて、銀時はまた大人気なく叫ぶ。

「そりゃぁ近藤さんがここはいつでも開いてるっておっしゃるから、添え膳を食わぬは武士のなんとかっつーことで」

「武士のなんとかじゃネェェよォォ!!っていうか左開けとけ、いいか左乳首開けとけ!!」

「冗談じゃねぇ。早い者勝ちでサァ」


「ダメダ!ダメだってば総悟君!!アッ」





 

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銀時と沖田でおとなげない近藤さんの取り合い。萌えネタをありがとうございます。消化不良感は否めませんがお許しを!ありがとう4万