「真選組は、一つ屋根の下で寝食を共にする、言わば家族みてーなもんだから」


桜 DE ファミリア




桜舞う酒宴の席で、酔いに任せて沖田総悟は問うた。

「近藤さん、近藤さんにとって本当に大切なものってなんですかィ?」

頬だけでなく耳まで真っ赤に染めた近藤の酔ってトロンとした目が少し見開かれて、上機嫌な男はわははと笑う。

近藤の隣を陣取って酒を飲んでいる土方は、答えに興味があるのか聞こえていないのか、黙りこくったまま杯を仰いでいる。

「ねぇ」

沖田が催促すると、近藤は、空を見上げて

「そりゃ難しい質問だな」

と、大切なものを指折り数え上げ始めた。

もとより大切なものの多い性質だ。両手の指が全て折られて

「お妙さん」

と2度目の呟きが聞こえてきたので、驚きというよりがっかりという気持ちになった沖田は、自分のグラスに酒を注いだ。

「そういうことじゃァなくて―」

例えば武士道とか

例えば魂とか

「ん?どういうことだ?」

せめて愛とか

そういう事を言って欲しいってもんだ。

「質問、変えまさァ」

何と言えばいいものかと思案する沖田の目の前に桜の花弁がひらひらと落ちる。


「例えば、もしも・・」

「もしも?」

「惚れた女の顔も、白刃の輝きも、俺達のことも、志も、酒の味もこの花の色も、何もかも忘れちまうとして」

「ほーそりゃ困ったな」

「無くしちまうとして」

「うーん」

「それでもたった一つ自分の中に置いとけるとしたら、何がいいですか?」

「そりゃ一層難しいな」


眉を寄せた近藤の瞳が瞑られて、杯を仰ぐ土方の手が止まる。

ギロリと穏やかではない瞳が沖田のほうに向けられて

「総悟・・・」

土方が口を開いた瞬間に


ぱこーん


ミントンの羽が近藤の額に直撃した。

目を瞑っていて、おまけに完全に油断していた近藤が、勢いぶっ倒れる。


「ぎゃー局長!!大丈夫ですか!!!」

「テメぇぇぇ山崎ィ!!!」

駆け寄ろうとした山崎が動くより早く、土方が立ち上がり、

「ひぃ」

恐怖のために顔を青くして山崎は立ち竦んだ。



仰向けになった近藤が目を開けると

花を満開に咲かせた桜の、爽快な命の揺らめきが、目に飛び込んでくる。

近くで、
遠くで、

隊士たちの笑い声が聞こえる。


(この桜の色も、お妙さんの姿も、みんなの顔も、酒の味も、虎鉄ちゃんの力強さも、忘れちまうとして、失っちまうとして・・・)


たった一つ心に残すなら、残るなら・・・


「・・・・・・」


「総悟今の質問の答えだが」

山崎を殴る土方を見て「元気だねぇ」と呟く沖田の瞳がゆっくりと近藤に向けられた。

近藤は上を見上げたまま口元を少し緩ませている。


桜の花弁が青い空に舞う。



「お前たちの笑い声がいい」





 

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