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ぐずぐずと溶け出しそうな太陽の光を浴びて、黒く濃い影が橋の上にのびている。

沈み行く夕日同様、影の主はぐずぐずと消え入りそうで、その影は橋の木板に染み入りそうで。
そのあまりの、「らしくなさ」に俺はその背から目を離せなくなってしまった。


ミルキーはパパの味




「ヨォ」

何気ない風を装って軽く声をかけると、欄干にもたれ掛かった近藤がコチラを向いた。

「ああ、なんだ」

虚ろな目とはっきり開かれない口。
なんだって何だ?!お前、折角人が心配してやってんのに。

「ちょいと冷たいんでない?」

もう顔を夕日の方に戻した男に俺は懲りずに声をかける。
ホラあれだ、コイツがこんなんなってるなんて珍しいし、恩を売っとけば後で役に立つかもしれねぇし。

「んーそうでもない」

「エェェェ!!そうでもないの?明らかに冷たいヨ!コレ!!いつもよりなんか冷たいよ~」

俺の割と派手目のツッコミにも完全にノーリアクションの近藤を見て、俺は、こりゃぁマジで重症だな。と感じる。
仕方がないので、俺も、欄干にもたれ掛かって持っていたミルク味の飴を口にいれた。


「なぁ銀時」

「飴ならもーねーぜ」

「いや、飴はいいよ。それより・・」

なんだか張り合いがなくてつまらねー。とかなんとかそんな事を感じながら、俺は黙って、時折口をもごもごさせて、近藤の言葉を待つ。

「それよりさ、時折不安になったりしねぇ?」

「は?ナニガ?」

「なんつぅーか、こう」

そこで本日はじめて近藤君は銀さんの方を向いて、「はぁ」と溜め息混じりに肩なんて落として、おかしい事この上ない。
それでもみんなの銀さんは優しい男なので、黙って、やっぱり時折飴をモゴモゴさせて、じっと黙って待ってやるのだ。



「一人ぼっちになったりしねーかな。とか」


言うだけ言って恥ずかしくなったのか近藤は、背を思いっきり曲げて欄干に置いた腕に顎を乗せた。


まったく何言ってんだかこの男は。

例えば太陽が西から昇ったとしても、あの目つきの悪い男がコイツから離れることは考えられない。
例えば天地がひっくり返ったとしても、あのサディスティックな少年が彼の背を追いかけることを止めるとは思えない。
例えば俺の髪の毛がストレートになったとしても、あのむさ苦しい連中がこいつを慕うのを止めた姿なんて想像もつきやしない。

誰の目に見ても明らかなそれをお前は心配するのか。なんてアホらしくて言ってやる気もおこらねー。し。

「あのよー近藤」

「お前はねーか?ねーよな。お前ら、なんか3人1セットだもんな」

「そういう個人個人の個性と人権を無視した言い方するんじゃねーよ」


ぐずぐずと溶けそうな夕日を見つめるぐずぐずと溶けそうな男。
「どうしたんだよ?」とか、「何があったんだよ?」とか「らしくねーんでねーの」とか。言える台詞は山程あるというのに、どうしてか、言葉が口から出てこない。
それはあるいは万事屋だっていつ別れるか解らないからなのかも知れない。
そんな事は誰にも知れない。
明日のことはわかりっこない。

だとしたら、
だとしたら・・・。


「あーモウお前、こっちまでテンション下がっちゃたじゃねーか」

「ならテンション下がりついでに聞くが、こないだやっぱり辛かったか?ほら、チャイナ娘がさ・・・」

俺は思うに、そういうことは、テンション下がりついででも聞かねーで欲しい。


「バーカ。誰だと思ってんだ、銀さんだぞ・・・」

なんとなく、近藤と同じ方向を向いていられなくて、俺は、橋の方に体の向きをかえて欄干にひじをつき、まだぐずぐずとしている赤い空を見上げた。

「寂しかったにきまってんだろーが」



見上げた空には、童謡さながらカラスが3羽並んで飛んでいる。


「そうか」

「情けねーよな」

「そうだな」

「親父くさくてよォ」

「そうだな」



「神楽がさ、嫁に行くときは、多分銀さん泣いちゃうヨ」



やっとこさ見れた近藤の顔が、さっきまでと比べたら随分楽になったように感じて、ほっとしたりしてしまいながら、俺は再び体の向きを変えた。

「お前は?」

近藤が丸めていた姿勢を解いて、うーんと背伸びする。

「そうだな、総悟が婿に行くときは近藤さんも泣いちゃうナ」


「・・・お前それはマズイだろ」

「エェェェ!!ダメ?」

「ダメだろ?婿だろ?男だろ?」

「そうだけど・・・」

モゴモゴと口ごもる近藤が急に可愛らしく感じて、なぜだか素直に笑ってしまう。

「お前、割と可愛いな」

そうして近藤に手を伸ばした瞬間に

「誰が可愛いって」

「あん?」と、聞きなれた美声が聞こえてきて、俺はふと沸いた意地悪な衝動のまま近藤に抱きついた。
その声を聞いた近藤が、腕の中でビクリと跳ねて

「ト、としクン?!」

どうもコイツとの間に何かあったのだろう。と解り安過ぎる反応をする。


けれども


振り返った近藤は笑顔だった。


この優しい男は、どうやら優しすぎるが故に嘘をつく。

しかし、それはけして器用な嘘ではないので、誰の目にも明らかで、

だから、俺と近藤の間に割って入った土方は、弾みか勇気かこんな街中で近藤の手を握ってしまったりしたのだろう。


「帰ろう近藤さん」

「ああ」

近藤よりも何倍もうまい嘘つきな面で、その癖少しだけタバコを噛むようにギュッと口を閉じた多串君は愚か、俺さえ「こいつ泣きそうになってたんだぜィ」的な冷やかしをいれられないのは、優しい嘘つきへの敬意か愛か。

なんにしても、あれじゃあ多串君は報われないに違いない。





 

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Yes。大人の男はややこしい生きものだから

神楽ちゃんのあの時はパピーのあの時です