スキップ?



屯所にたどり着くまでの最後の曲がり角を曲がったとたん、腿のあたりに衝撃を感じて、下を見ると、手に枝を握りしめた少年と目が合った。

「あ、ごめん」

今まで偵察してきた事をどう報告しようか考えていた所作で前方に注意を払っていなかった。
たまたまぶつかったのが枝を握った少年だったからいいものの、これが刀を握った大人だったと思うと・・・迂闊だった。

少年は少しの間俺の顔をなにやら見つめて、思い出したようにニコリと笑うと、仲間のほうに駆けていく。
「ニコリ」が気になって彼を目で追った自分は、円になって彼を待つ少年の友達が、皆同様に枝を握り締めていたので、あの枝が刀の代用だと言うことに気づいて、だとしたら尚のこと迂闊だったと反省した。


ちゃんばらごっこだなんて今時珍しい。


「遅いぞー」

「キョクチョウすみません」

ノスタルジックな気分になってそのまま少年団を見守った自分の耳にそんな科白が聞こえてきた。
よく見ると彼らの中には首に手ぬぐいを巻いているのが何人か居て、キョクチョウと呼ばれた、局長とは似ても似つかない少年の、少し偉そうな態度はなんだか微笑ましくて笑える。
その隣に寄り添うように立っている、眉間に皺をよせている少年とふてぶてしい態度の少年は、フクチョウとオキタタイチョウなのだろうと見当をつけてついに俺は噴き出した。
その瞬間に、輪の中に戻っていた先程の少年がこちらを振り返って、あれはもしかしたら俺役なのかもしれない。とちょっぴり嬉しくなった。


幼いころの夢−例えば宇宙飛行士、例えば蹴球選手、例えば火消し・侍・真選組!もしかしたら攘夷志士だなんてのも−は、夢だなんて不確かなものよりまだずっと不確かで。
多くの人は大人になるにつれてずっと現実的でずっと小さな目標に取って代わられる。
それが悪いことだとは言わないし言えないけれど・・・。
あの時分の、すこんと明るい、何の根拠もないのに希望に満ち満ちたエネルギーを取り戻すことができたなら。


背中で馬鹿に明るい少年特有の弾ける様な笑い声を聞いて、「これを守るために」なんて格好良すぎるけれど、けれどやっぱりそういうもののためになら、睡眠時間がまともに取れなくてフラフラになったり、不規則な生活に体が悲鳴をあげたり、目つきの悪い上司にいびられたりするこの仕事も悪くない。と改めて感じる。

幼い頃の夢を告白すれば、”お医者さん”だなんて今とはまったくかけ離れたものだったりして。
あの時の漠然とした、けれどもやはり希望に満ち満ちた夢は、いつのまにか泡のように消えてしまったけれど、
誰かの役に立つ。という意味では今日のコレと大差ないんじゃないだろうか。

そう考えたら急に嬉しさが込み上げてきた!


そして俺の足は軽やかに大地を蹴る。



もしあの古びた道場に入り浸るようにならなければ

もし一緒に居れば刺激されるような、なんだかんだ言っても信頼できるような仲間に出会わなければ

もし、もし、もし、局長に「山崎」と名を呼んでもらえていなかったなら

この不確かな時代、この不確かな町で、俺は、

俺は−



気がつけば、なぜか本気で、かなり必死に、自分は屯所までのあとちょっとの距離を駆けていた。
局長の笑顔が自分の脳裏にありありと浮かんで、
恋しくて恋しくてこのホンノ少しの距離をやけに遠く感じている。

「ありがとう」なんて照れくさいけれど
照れくさすぎるけれど



局長近藤勲という存在に俺は今猛烈に感謝している。





 

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衝動的な子だといいなぁサ・ガール君 近藤さんはみんなのお父さんですよ!