夕焼け



―天守閣より夕焼けを望みて―


赤い夕日がゆっくりと沈んでいく。

その夕日は確かに赤いが、けして力強くはなく、日中の名残を残す空の青と混ざり合い、境界線は紫−時に淡いオレンジ

薄い雲が細く長くたなびいて、柔らかい光に染まっている。


(ここはこんなにも空に近かったのか)

普段よく目にする景色とは、まったく違う眼前の風景。

遠くまで見渡すことの出来る城下町。

今は昔と随分変わったその街は、どこもかしこも赤く染まって美しく、光る屋根が水面のようだ。と近藤は思う。


ただ真っ直ぐに夕焼けを見つめる二人は、まるで本当の親子のように寄り添い手を繋いでいる。

楽しかった時間はあっという間に過ぎ、二人がこうしていられるのも残り一日となった。
互いの中に生まれた寂しさは、やはりどうあっても否定できず、自然握る手にも力がこもる。


不意に、


「夕日がとっても綺麗」

そよ姫が口を開く。

「はい」


「随分冷え込むようになりました」

ちょうど風が吹いて姫の髪がふわりと舞い上がり、言葉どおり夜を運ぶ風の冷たさに、小さく身をすくめた姫の頭を、近藤は優しくなでた。

「本当に」


「遠くに見える山が色づいて・・・」

「はい」


「人、恋しくなります」

「・・・・・・」


「髭さんは、誰か会いたい人はいますか?」


夕日に顔を染めた近藤は目を細めて、桟に体を預け、はるか遠くに視線を送った。
頭に思い浮かべるのはもちろん愛しいあの女(ヒト)。
近藤の顔を覗き込んだそよ姫は、かの男の瞳の中の光が優しくきらめいているのを見て、誰か愛しい人が居るのだと知った。


「姫は?」


少しの沈黙の後、
近藤がそう聞きかえしたので、

自分もこの人のように優しい目が出来るかしら。と思いながら、


「そよは、お友達に会いたくなります・・・」



そよ姫は小さいけれど凛とした声でそう答える。





「ああ、まったくだ」








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以上ひげそよでした。