海老で釣った鯛



陽だまりの中で近藤さんが笑っていた。 うららかな陽射しがほの暖かい、山腹の、参詣道で。

風が凪いでいて、ひっそりとしたこの小道に降り注ぐ日の光はぽかぽかと暖かい。木々もどこかほっとしているそんな昼に近い午前のことだ。

貴重な休日を散歩してくっちゃべって過ごす幸せな時間。 なのに近藤さんときたら。 俺はさっきの近藤さんの一言で、はっきりくっきりと傷ついて。 見て下せェちゃ〜んと俺を。 アンタに背をむけてるってのに。


「腹減ったなぁ蕎麦でも食いに行かねぇ?」

この人はまったくどうしてこんなにこの人なんだろう。

「海老天」

不機嫌な声で呟くと、「おーいいね」とご機嫌な声で返される。

「では参るか」

ご機嫌の近藤さんが立ち上がったその瞬間に、陽だまりはただの木洩れ日にかわって、俺は、この人こそが陽だまりなのかと驚いた。


仕方ない。海老天で機嫌直すか。

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